45度線分析_07_貯蓄関数の続き
前回の貯蓄関数のつづきです。
貯蓄関数は
S = -C0 + (1 - c)( Y - T)
の形で表される、ということを説明しました。
式をパーツごとにもう一度説明しておきます。
- 「-C0」は基礎消費C0にマイナスがついたものです。これは、「貯蓄はマイナスの消費である。」というかんがえによるものです。(「マイナスにお金を使う」ことは「お金を貯める」ことを示します。)
- 「(1 -c)」は限界貯蓄性向。収入のうちの何%を貯金に回すか、ということを表します。また、(1 -c)はアルファベット小文字のsであらわすこともできます。
- 「( Y - T )」は可処分所得。税金などを支払ったあとにのこる、自由に使える収入です。
グラフにすると、以下のようになります。
貯蓄のパラドックス
復習はこれくらいにして、貯蓄についてもうすこし考えてみます。
よく、「もっと消費を刺激して経済を回すべきだ!」みたいなことをニュースや政治のシーンで耳にします。「貯金せずにもっとお金つかえ!」ということです。
確かに、人々が貯金ばかりしていたら、なんとなく景気も悪くなっていきそうですが、そうはいっても貯金がないと心配だし…。これまでに勉強した貯蓄関数と三面等価の式を使って、この感じを見てみましょう。
財市場の需要Ydと供給Ysが一致した点で、均衡GDPが決まるのでした。
- Yd = C+I+G+(EX-IM)
- Ys=C+S+T
もしも財政収支(政府の支出と税収)が均衡していて(G=T)、経常収支(輸出と輸入)も均衡していたら(EM=IM)、財市場の均衡(Ys=Yd)は『I=S』になります。
( C+I+G+(EX-IM)=C+S+T を解くということです)
投資「I」と貯蓄「S」が均衡しています。
前回得られた貯蓄についてのグラフに投資「I」を追加してみましょう。
今考えている式では、投資「I」は横軸「Y」によって変化しないので、このグラフでは水平な直線で表されています。
投資「I」と貯蓄「S」の交点が均衡GDP「Y*」です。
例えばいま、経済が不況になったとします。生活が苦しくなるムードが蔓延し、家計は財布のヒモをきつくし、消費を減らして貯蓄を増やします。つまり、限界貯蓄性向(1 - c)が増加するということです。
限界貯蓄性向(1 - c)は貯蓄関数の傾きになっています。貯蓄したい熱が高まると、傾きが大きくなります。
すると、貯蓄関数は左にシフトし、均衡GDPも左に、つまり減少してしまいました。
家計は不況に対処するために合理的に行動して貯蓄を増やしました。(景気が悪いのにバンバンお金を使う人はそういないですよね)しかし、消費を減らすということはものが売れなくなるということで、誰かの所得がその分減るということです。所得を減らされた誰かは、その分消費を減らし、また誰かの収入が減る…。そんなループが巡り、さらに不況が加速していきます。
ミクロレベルでの家計の合理的な行動が、マクロレベルでは最悪の行動になってしまいました。これを貯蓄のパラドックスといいます。
以前マイナス金利が日本で導入されました。貯金をするとお金が減る状態を作ったんですね。貯金じゃなくて、もっとお金を人々が使って、経済が回るように導こうとする狙いがあるんですね。
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45度線分析_06_貯蓄関数
以前に消費関数を紹介しました。
家計は得た収入から税金をはらい、残りを消費と貯蓄に分配します。
三面等価の分配面(Y=C+S+T)はこのことをあらわしていたのでした。
また消費(C)は以下の式で書き表します。
C = C0 + c( Y - T )
C0は基礎消費。
これは生きていくために最低限必要な消費ですので、借金をしてでも払うまずこれを払う必要があります。
(Y-T)は可処分所得といいました。
Yは収入、Tは税金を表しています。
収入のうちから税金を引いたものが、実際に使うことができる金額です。
c は限界消費性向です。
これは%で考えます。
(Y-T)、つまり使える収入のうち、c%を消費に回すということです。
消費に回されなかった分は貯蓄されます。
今回はこの貯蓄について見ていきます。
貯蓄関数
貯蓄はアルファベットのSであらわします。
貯蓄(S)を決定する貯蓄関数は以下のようになります。
S = -C0 + (1 - c)( Y - T)
実は消費関数をもとに導いているので、ちょっと似た形になっています。
これから式の意味を説明します。
まず、-C0ですが、基礎消費C0にマイナスがついています。
これは、「貯蓄はマイナスの消費である。」というかんがえによるものです。
(「マイナスにお金を使う」ことは「お金を貯める」ことを示します。)
次に(1 -c)です。
これは限界貯蓄性向です。
消費に回らなかった分は貯蓄になります。
たとえば限界消費性向(c)が0.8(80%)だとすると、限界貯蓄性向(1 -c)は0.2(20%)になります。
収入の80%を消費に回したら、のこりの20%を貯蓄するということですね。
この限界貯蓄性向(1 -c)はアルファベット小文字のsであらわすこともできます。
グラフにすると以下のようになります。
切片がマイナスになっていますね。
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45度線分析_05_インフレギャップ・デフレギャップ
前回、YsとYdのグラフを重ね合わせ、均衡GDP「Y*」を明らかにしました。
「財市場の供給」=「Ys」
「財市場の需要」=「Yd」
Ys = Y(三面等価の生産面)
Yd = C+I+G+(EX-IM)(三面等価の支出面)
もういちど、大事なポイントの確認を。
- Ysは「供給」=「生産された価値」
- Ydは「需要」=消費+投資+政府が使うお金+輸出-輸入(生産された価値に対しての支出)
でした。
では、もしもこの供給と需要が釣り合わなかったらどうなるのでしょうか?
つまり、供給=「生産した分」よりも、需要=「欲しい分」が少なかったら?
または、供給=「生産した分」よりも、需要=「欲しい分」が多かったら?
前回得た均衡GDP「Y*」が「釣り合っている状態」を表しています。
しかしながら、現実世界では、常に作った分を誰かが欲っしているというわけではありませんよね。
作ったけど余るときもあれば、欲しいひとがいっぱいいるのに作る量が足りない、ということも起こるわけです。
この現象について、45度線分析をつかって国レベルのスケールで分析していきます。
完全雇用GDP
この需要と供給が釣り合わない状態を考えるために、「完全雇用GDP」という言葉を定義しておきます。
これを「Yf」とします。
「Yf」はその名前のとおり、「完全雇用が達成されているときのGDP」です。
もっとくだけた言い方をすると、
「働きたい人が全員働いたときに生産される価値の合計」です。
みんなで働いたときに生産されるGDPが「Yf」です。
インフレギャップ
前回つくったグラフをもとに考えてみましょう。
前回作ったグラフはこうでした。
YsとYdが一致しているところが均衡GDP「Y*」です。
ここに適当に「Yf」を置いてみましょう。
この「Yf」の位置に特に意味はありません。適当においただけです。
「Yf」の延長線上をみてみましょう。
①は「Yd」つまり需要との交点。
②は「Ys」つまり供給との交点です。
需要①の方が供給②よりも上にあるのがわかるでしょうか。
需要のほうが供給量を上回っている、「超過需要」の状態です。
みんなが働いた時に、生産される量よりも求められる量の方が多い状態ですね。
これがインフレギャップです。
需要に応えるためには、みんながもっともっと働かなければなりません。
これは景気が加熱している状態とも言えるでしょう。
デフレギャップ
反対に、「Yf」をもっとグラフの右側に置いてみましょう。
すると今度は、供給②の方が需要①よりも上にきています。
これは供給量のほうが需要を上回っている、「超過供給」の状態です。
欲しい量よりもたくさん作ってしまった状態ですね。
これがデフレギャップです。
作っても物が売れないので、不況といえるでしょう。
生産してもしょうがないので、生産量を控え、そのために失業やリストラが起きるかもしれません。
財政政策による調整
このように、インフレギャップやデフレギャップが起きてしまうのは、望ましいことではありません。
100つくったら100売れる、というのがやっぱり理想ですよね。
100つくったのに130欲しいひとがいる。とか、
100つくったのに70しかない!っていうのはなんだかもったいない感じがします。
そこで活躍するのが政府です。
政府は財政支出「G」や、人々から集める税金「T」を調整して、このギャップを解消することができます。
※一般的に税金をコロコロ変えるのは政府の対応としては望ましくないので、ここでは「G」についてだけ考えることとします。
このように、政府が景気の調整を目的として財政支出を変化させることを「財政政策」とよびます。
例えば、オリンピックのために競技場を国の予算でつくったりするのがこれに当たります。
基本的に財政政策というと、土木作業(道路を作ったり、インフラ整備)が多いですね。
財政政策「G」は財市場の需要「Yd」の切片に含まれていました。
もう一度グラフを確認してください。
インフレギャップにたいする財政政策
たとえばインフレギャップが起きている場合。
つまり景気が加熱しすぎている場合です。
政府は「G」を減らして、需要を減少させます。
「G」は財市場の需要「Yd」の切片に含まれていますので、「G」が減少するとYdは下方向にシフトします。
均衡GDP「Y*」が「Yf」と一致するようになれば、つまりギャップが解消されるというわけです。
デフレギャップにたいする財政政策
デフレギャップの場合は反対です。
不況が起きているので、政府は支出を増やして需要を刺激します。
「G」は財市場の需要「Yd」の切片に含まれていますので、「G」が増加するとYdは上方向にシフトします。
均衡GDP「Y*」が「Yf」と一致するようになれば、つまりギャップが解消されます。
政府はこんな風にして需要を刺激して、バランスのいい状態を保つ役目があるのです。
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45度線分析_04_財市場の均衡
前回は財市場の需要について勉強し、グラフにして表しました。
今回はそれを以前得られた財市場の供給曲線(45度線)と合わせていきます。
ところで、需要と供給が一致していることを「市場均衡」と呼びます。
ここでは大きな財市場について考えているので、財市場の市場均衡を見ていくことになります。
財市場の均衡
需要と供給が一致するので、
Ys = Yd
ですね。
まずはYsグラフとYdグラフを合体させてみます。
縦軸が需用量と供給量をあわわし、横軸はGDPをあらわしているのは前回までのグラフと同じです。
グラフの交わっている点(E点)が財市場の均衡点です。
需用量と供給量が一致している点で、均衡GDP(Y*)も決まります。
*(アスタリスクは均衡点という意味です)
取引は、需要と供給が一致したときに初めて行われます。
りんごを売りたい人が100人いても、買いたい人が80人なら80の取引にしかなりません。
ここでは財市場について考えていますので、
あらゆるすべての財・サービスについての需用量と供給量が一致したE点で、全体の取引の総額(付加価値合計・GDP)が決まる
という見方をするとストーリーがわかりやすいかもしれません。
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45度線分析_03_財市場の需要
前回は消費関数について勉強しました。
消費は、財市場の需要を作る要素の1つでした。
Y:付加価値・GDP(Yeild)
C:消費(Consumption)
I:投資(Investment)
G:政府(Government)
EX:輸出(Export)
IM:輸入(Import)
S:貯蓄(Saving)
T:税金(Tax)
今回は財市場の需要(Yd)について勉強します。
上にあるように、財市場の需要(Yd)はこんな式で表されます。
Yd = C+I+G+(EX-IM)
この式にあるCについて前回は勉強して、Cがどのように決定されているか、新しい式を得たのでした。
C = C0 + c(Y-T) (消費関数)
- 生きていくのに最低限必要な消費「C0」と
- 税引き後所得「Y-T」のうちどれだけの割合を消費に回すか「c」
によって実際の消費が決定される。
このCをYdの式に代入すると、
Yd = C0 + c(Y-T) + I + G + (EX - IM)
とこのようになります。
さらに()カッコを外すと、
Yd = C0 + cY- cT + I + G + (EX - IM)
となります。
グラフにしてみる
そもそも僕らは財市場(Y(GDP))について考えていますので、Yd = C0 + cY- cT + I + G + (EX - IM)をYを主役としてグラフにしてみます。Yを変数とし、Y以外の要素は、切片にします。
Yd = cY + C0 - cT + I + G + (EX - IM)
黄色は変数(主役)
青色は傾き(変数Yについているcがここでは傾きになります)
緑色は切片です。
次回はこの財市場の需要のグラフと、供給のグラフ(45度線)を合体します!
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45度線分析_02_消費関数
前回は財市場の「供給面」について勉強しました。
今回からは「需要面」についてみていきます。
需要とはつまり、その財を求め、手に入れる(買う)ことですから、三面等価の「支出面」の式から考えていきます。
財市場の三面等価はこの3つの式でした。
- 「Y」は生産された付加価値の合計なので「生産面」
- 「C+I+G+(EX-IM)」はお金を払って買う人たちの話なので「支出面」
- 「C+S+T」は人々の所得になった付加価値の分配先です。「分配面」
これら3つはイコールの関係です。
Y:付加価値・GDP(Yeild)
C:消費(Consumption)
I:投資(Investment)
G:政府(Government)
EX:輸出(Export)
IM:輸入(Import)
S:貯蓄(Saving)
T:税金(Tax)
財市場の需要を「Yd」とすると、「Yd」は以下のようにあらわされます。
Yd=C+I+G+(X-M)
供給面「Ys=Y」と比べると多くの要素が含まれていますね。これから各要素を個別に見ていきます。
ちなみにYdのことを別名「有効需要」と呼ぶことがあります。覚えておいてもいいでしょう。
消費関数
まずは「C」から。
「C」とは「消費」のことでした。
消費を行うのは家計ですが、家計はどんな行動をするのでしょう。
三面等価の分配面を覚えているでしょうか。
- 「C+S+T」は人々の所得になった付加価値の分配先です。「分配面」
生産された付加価値「Y」は家計の所得となります。
所得の使い道は3つでした。
「消費「C」」か「貯蓄「S」」か「税金「T」」です。
生産された付加価値「Y」が3つの使い道に分配されるので「分配面」とよばれているのでした。
家計がどんな風にして所得Yを分配し、消費の量を決定するのかを詳しく式にしてみると、以下のようになります。
C = C0 + c(Y-T)
人間はなんやかんやお金を使って消費しないと生きていけません。たとえ所得がなくても生きている限り消費はします。この生きていくために最低限必要な消費のことを「基礎消費」といい、「C0」で表します。
生きていくために消費は絶対なので、C0 > 0
C0の値は0よりも大きくなります。
次に、(Y-T)についてですが、所得(Y)から税金(T)を引いています。
税金は必ず払わなければ捕まってしまいます。稼いだ所得を消費にまわす前に、まず税金を支払います。
(Y-T)は税引き後所得です。これを「可処分所得」と呼びます。
可処分所得の使い道(分配先)は2つです。
「消費」か「貯蓄」です。
可処分所得のうちどれだけの割合を消費にまわすか、という割合のことを「限界消費性向」といい、小文字の「c」で表します。
例えば、僕が10000円の可処分所得のうち、8000円を消費にまわし、2000円は貯金するとすると、限界消費性向は0.8です。
10000 x 0.8 = 8000
10000円の可処分所得を全て消費する人の限界消費性向は1です。
10000 x 1 = 10000
通常、所得以上に消費をする人はいないので、
0 < c < 1
c は 0以上、1以下になります。
今回は、家計が消費するときの行動を式として表してみました。
最後にこれからの分析のため、この式をグラフにしてみます。
C = C0 + c(Y-T)
この式をグラフにとってみます。
中学校で習う比例の式「Y=aX+b」と同じです。
Cを縦軸に、(Y-T)を横軸にとります。
C0は切片に、cは傾きになります。
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45度線分析_01_45度線
前回得られた三面等価の3つの式を今回も使っていきます。
すべての財が取引される市場(財市場)の需要と供給を表すのが、三面等価の中身でした。
- 「Y」は生産された付加価値の合計なので「生産面」
- 「C+I+G+(EX-IM)」はお金を払って買う人たちの話なので「支出面」
- 「C+S+T」は人々の所得になった付加価値の分配先です。「分配面」
これら3つはイコールの関係です。
Y:付加価値・GDP(Yeild)
C:消費(Consumption)
I:投資(Investment)
G:政府(Government)
EX:輸出(Export)
IM:輸入(Import)
S:貯蓄(Saving)
T:税金(Tax)
財市場の需要と供給について、これから45度線分析という手法を使ってみていきます。
「供給」とはつまり生み出し、与えることなので、先ほどの式の「生産面」にあたります。
「需要」とは欲しいものを買うことなので「支出面」になります。
「財市場の供給」「財市場の需要」といちいち言うのは面倒なので、
- 「財市場の供給」=「Ys」
- 「財市場の需要」=「Yd」
と置き換えますね。
すると、
となります。
45度線
財市場の供給は単純な式ですね。
- Ys = Y
ただこれだけです。
「Y」とは付加価値のことでした。
Yの価値が生産されて、それが誰かに供給された。(分け与えられた)ということです。
これをグラフにしてみます。
横軸に付加価値「Y」、縦軸に供給量「Ys」と取ると図1ようなグラフになります。
YsとYがイコール、つまり同じなので
片方が1ならもう片方も1。
片方が3ならもう片方も3。
縦軸と横軸の重なる点をつなげてグラフにすると、必ず傾きが45度になります。
こんなイメージです。
このように、財市場の供給をグラフで表すと、その傾きは常に1、つまり45度になります。
この供給面のグラフをもとに分析を行うのが45度線分析です。
次回はこの45度線を使って分析を深めていきます。
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