経済学をはじめから勉強するブログ

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アブソープション・アプローチ

前回得られた三面等価の3つの式を使っていきます。
  • 「Y」は生産された付加価値の合計なので「生産面」
  • 「C+I+G+(EX-IM)」はお金を払って買う人たちの話なので「支出面」
  • 「C+S+T」は人々の所得になった付加価値の分配先です。「分配面」
これら3つはイコールの関係です。
Y:付加価値・GDP(Yeild)
C:消費(Consumption)
 I:投資(Investment)
G:政府(Government)
EX:輸出(Export)
IM:輸入(Import)
S:貯蓄(Saving)
T:税金(Tax)
 

アブソープション・アプローチ

支出面と分配面の式を使ってみましょう。2つの式はイコールの関係にあるので、
「C+I+G+(EX-IM)」=「C+S+T」となります。この式を変形すると、
(S-I)=(G-T)+(EX-IM)という式になります。
これが一体なんの意味をもっているのでしょうか。
 
「S」は貯蓄でした。貯金は基本的に銀行に預けられ、銀行は預かったお金を欲しい人に貸し出します。
お金を借りたいのはまず企業です。企業は投資「I」のための資金を銀行から借ります。
◎これが左辺の(S-I)「民間部門」です。人々の貯金「S」は投資「I」に使われます。
 
右辺も見ていきます。
「G」は政府の支出です。このお金はどこから来るのかというと、国民の払った税金「T」です。税金は政府の収入です。(G-T)は「政府部門」と呼ばれます。
支出「G」が収入「T」より多ければ赤字です。政府の赤字は「財政赤字」といいます。反対に、収入の方が多ければ「財政黒字」です。
 
(EX-IM)は前回の記事でも触れました。「EX」と「IM」は輸出・輸入を表すので、つまり日本と海外の貿易のことです。
◎輸出額(EX)が輸入額(IM)より多ければ「貿易黒字」、逆だと「貿易赤字です。「外国部門」と呼ばれています。
 
ここからが本番です。
(S-I)=(G-T)+(EX-IM)からいろいろな事が分かります。
***おさらい***
(S-I):(貯蓄)ー(投資)
(G-T):(政府支出)ー(税金(政府の収入))
(EX-IM):(輸出)ー(輸入)
(民間部門)=(政府部門)+(海外部門)
まずは民間部門「S-T」ですが、日本は戦後一貫して貯蓄「S」が投資「I」を上回ってきたため、左辺の「民間部門」はプラスでした。
(S-I)=(G-T)+(EX-IM)が成立するためには、右辺の(G-T)+(EX-IM)もプラスである必要があります。右辺がマイナスの値では、イコールにならないからです。
  • 正:(プラス)=(プラス)
  • 誤:(プラス)=(マイナス) ←これでは式が成立していません。
つまり、日本は構造的に財政赤字(「G-T」がプラス)と貿易黒字(「EX-IM」がプラス)になりやすいということが分かります。
財政赤字については、政治家の怠慢や政策、無駄な公共事業のせいだとメディアはしばしば報道します。また、日本が貿易黒字なのは、高い技術力をもって作られた日本製品の質が良いからだと言われます。これらの説明はミクロ的にはおそらく正しいと言えます。
しかし、マクロ経済学の視点からは、「財政赤字」と「貿易黒字」は日本人が貯蓄をしすぎるからだ、という説明もできるのです。
 
アメリカではどうでしょうか。
アメリカ人は多くの消費を行い、貯蓄はほとんどゼロと言っていい水準です。右辺の「政府部門」では対外戦争で財政赤字が続いています。
(ゼロ)=(プラス)+(???)となるので、この等式を成立させるには、残った貿易赤字(「EX-IM」がマイナス)でなければなりません。アメリカでは財政が赤字になると構造的に貿易赤字も膨らむのです。
 
このように、その国のある部門で収支に不均衡(黒字や赤字)が発生すると、他の部門がその不均衡を吸収(アブソープション)してバランスをとることになります。これをアブソープション・アプローチといいます。
ここで注意したいのは、アブソープション・アプローチはただ構造的な説明をするだけで、因果関係を説明するものではない、ということです。決して貯蓄が原因で政府が赤字を抱えているとは言い切れません。そういった因果関係は分からないけど、結果として(S-I)=(G-T)+(EX-IM)が成立している。というのがアブソープション・アプローチなのです。
 
健全なマクロ経済では、家計は貯蓄し、企業がそれを借りて投資を行います。そして政府は税金の分だけ支出します。
しかし、近年日本の企業は投資を控え、左辺の「民間部門」が大きなプラスでした。右辺の貿易はちいさなプラスなので、政府部門で大きな赤字となっています。
(+++)=(++)+(+)←このようなイメージです。これは極めて不健康な経済と言えます。
この不健康な状態の原因は、企業の投資不足、家計の貯蓄が多すぎる、または税金が低すぎることかもしれません。
 
アブソープション・アプローチによって、より多面的な原因の可能性が浮かんできました。
次回も、多面的に経済を考えていく予定です。
 

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